コンテンツまでスキップ
教育行政 英語学習

学校現場でのAI活用定着に向けた仕組みづくり

柿原祥之
柿原祥之 |

現在、AIをはじめとするデジタル技術の進展により、教育現場における働き方や学習のあり方は大きな転換期を迎えています。GIGAスクール構想の展開が加速する中、教育関係者の皆様はAIなどの新しいテクノロジーをいかに授業や校務に取り入れ、成果を最大化するかを模索されていることでしょう。

しかし、あらゆる業務変革には「導入」「定着」「発展」のプロセスが存在し、特に学校現場では独自の文化や慣習も相まって、変革を実際に根付かせるための仕組みを整えることが非常に重要です。教員は授業を中心に、個別で業務を行うケースが多いため、自然発生的な情報交換やノウハウ共有が進みにくいという側面があります。そのため、教育委員会や学校管理職が組織的なサポート体制を構築し、主体的にリーダーシップを発揮することが成功の鍵となります。

本記事では、AIを例に挙げながら、学校現場におけるデジタルツール導入全般に応用できる考え方を整理し、管理職および教育委員会の役割を中心にご紹介いたします。

1. 学校管理職のリーダーシップ

(1) 目標の共有

まずは管理職が、AI活用やデジタル化によって目指したいゴールを教員に明示し、共有することが重要です。学校全体として「どのような教育効果を期待するのか」「どのように業務を軽減し、生徒の指導や個別最適化された学習に注力する時間を増やしたいのか」といった具体的なビジョンを提示することで、教職員一人ひとりが改革の意義を理解しやすくなります。

また、「実務で使うための英語学習成果の評価目的と手法」でも触れられているように、導入の前後で可能な限り定量的な効果測定を実施することで、業務変革に向かう意識を高めやすくなります。

(2) ツール研究・検討の時間確保

多忙な学校現場では、新たに導入されたツールが十分に試されないまま形骸化してしまうことが少なくありません。そこで管理職が、定例会議や校内研修でAIをはじめとするデジタルツールを議題として挙げる機会を定期的に確保することが大切です。あわせて、既存業務の合理化や不要業務の削減に踏み込むことで、よりよい授業づくりのための時間を生み出すことこそ、管理職が発揮できるリーダーシップの一つといえるでしょう。

(3) 定期的な状況チェック

新しい技術を導入しただけでは十分とはいえません。導入の進捗や活用状況を把握し、必要なサポートを適宜行うために、管理職や担当者が定期的に状況を確認することが不可欠です。とりわけ、教員によって得手不得手が異なるため、それぞれに応じたサポートができるよう対話の機会を意図的に増やすことが望まれます。ICT支援員や外部専門家を招き、課題の可視化や具体的な解決策の検討を進めるとスムーズです。

 (4) 日々の応援

教員が「新しい取り組みを試してみよう」と思った際に、その努力をきちんと認め、周囲が後押しする文化を育むことも重要です。管理職が積極的に声をかけ、日常のちょっとした励ましや承認を行うだけでも、組織全体のモチベーションが高まります。小さな成果や成功事例を校内で共有することで、学校全体に前向きな雰囲気が醸成されていくでしょう。

2. 教育委員会(都道府県・基礎自治体)のリーダーシップ

(1) 教員研修全体の設計

教育委員会にとって、研修計画の設計と実施は大きな役割の一つです。特定ツールの使い方にとどまらず、指導や評価の在り方、学校組織運営との連携などを総合的にカバーする研修を提供する必要があります。オンライン研修や先行事例の共有など、多様なアプローチを組み合わせることで、教員が安心して新技術に取り組めるようサポートするとともに、専門性を高める機会を創出できます。

(2) 各種調査等、教員の間接業務の削減

AIを含むデジタル技術を円滑に導入・定着させるためには、まず教員の業務負担を軽減し、テクノロジー活用に挑戦する余力を確保することが欠かせません。教育委員会が主導する調査や記録業務のデジタル化・簡素化を進めることで、教員はAIツールの試行や研修に参加しやすくなります。また、データ活用の仕組みが整えば、教員がこれまで手作業で行っていた情報集約や分析を効率化できるため、学校現場全体の業務効率化と教育の質向上にもつながります。

(3) 教員間の情報共有機会の積極開催

地域全体や複数校にわたって共通の課題を抱えている場合、指導法やツール活用事例を共有する場を設けることが非常に効果的です。新たに場を設置しなくても、既存の勉強会などを有効活用することでも大きな成果が期待できます。さらに、オンラインでのコミュニティやフォローアップの場を整備することで、学校の垣根を越えた連携が促進され、専門知やノウハウの循環を促すことが可能です。

加えて、生徒が学びに意欲的に取り組んでいる姿や、AI活用による成果を共有することも、教員の内発的なモチベーションを高めるうえで重要です。教員がその職を選んだ原体験を呼び覚ますようなポジティブな事例が新しい時代のツールと結びついたとき、より大きな相乗効果が生まれるでしょう。

まとめ

AIをはじめとするデジタルツールの活用は、教育現場に大きな変革と新たな可能性をもたらします。しかし、導入段階で得られる一時的な成果にとどまるのではなく、継続的な活用と発展をどのように根付かせるかが真の課題です。そのためには、教員個人に任せるだけでなく、管理職や教育委員会が一丸となってサポート体制と学び合いの仕組みを整え、「変わること」への安心感と期待感を高めることが求められます。

本記事でご紹介したように、リーダーシップの発揮や日々の支援、業務環境の調整を通じて、より多くの学校現場がAI活用のメリットを享受できると考えています。教育行政の担当者の皆様には、引き続き現場を支える施策立案と改革の推進を期待するとともに、私たちもその取り組みに寄り添いながら実現を後押ししてまいります。

この投稿を共有