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教育行政

小中高大連携に向けたデータ活用のブループリント

柿原祥之
柿原祥之 |

GIGAスクール構想を契機に、日本の教育機関におけるデジタル化が急速に進んでいます。1人1台端末の導入により、授業の記録や学習成果の蓄積が容易になり、あらゆる科目での学習履歴がデジタルデータ化される環境が整いつつあります。こうしたデータは、教育現場における指導の質を高めるだけでなく、小・中・高・大学といった教育機関間の連携をより効果的に推進する基盤となる可能性を秘めています。

データを起点にした小・中・高・大連携

教育データの活用は、生徒一人ひとりに合わせた学びの最適化だけでなく、教育機関間のスムーズな連携にも寄与します。学習履歴や活動記録は、次の教育ステージへ移行する際の指導計画の参考となり、学びの継続性を確保する鍵となります。さらに、データを解釈する主体が教職員であれAIであれ、その恩恵を受けるのは常に生徒や保護者であるべきです。生徒が学校を卒業する際には、自らの学習データを所有し、保存・活用する権利が保障される必要があります。

データの価値

教育データは、生徒にとって以下のような価値を持ちます。

  • 到達度のプロファイリング: 生徒が何をどの程度理解し、何が課題となっているかを明確にし、次の学習目標を設定するための材料となります。
  • 学びのクセのプロファイリング: 生徒がどのように学び、どの分野に興味を持っているかを可視化することで、個別最適な指導を可能にします。
  • 思い出と次の学びへの活力: 例えば、中学校1年生の初めての英語発音と卒業時の発音を比較することで、自身の成長を実感し、新たな挑戦へのモチベーションにつながるでしょう。

データをただ「所有している」状態と、そこから「価値を受け取っている」状態には開きがあります。スマートフォンの「写真」アプリがよい例です。ただ写真を保管して閲覧可能なだけでは、ユーザーが意思を持って特定の写真を探したり見つけたりする必要がありますが、最近は「○年前」「思い出の場所」などのテーマに沿って、スマートフォンが写真を「発掘」してくれます。

こうした写真の中には、スマートフォンを所有するはるか前から撮りためていたデータもあるかもしれません。このように、データの実質的価値は、将来の技術の進化で大きく引き上げられることがあります。

教育データにおいては、こうした価値の「発掘」を行ってくれるソフトウェアはまだまだ普及していません。ですが、AIの目覚ましい進化が今後この領域に変化をもたらすことは間違いありません。将来に向けて、教育データの生みの親である生徒自身がアクセス可能な形でデータを保管しておくこそ、今の時点で教育者が考えておくべきことです。

個人利用できるべきデータの種類

生徒が自身で利用できるべきデータには以下が挙げられます。

  • カリキュラム: 学習指導要領単元コードなどのメタデータを用いることで、異なる教材や教科書を比較しやすくします。
  • 学習・活動履歴: 授業での進捗や課外活動の記録を含む。
  • 評価結果: 定期テストやプロジェクトの成果など、到達度がわかる情報。

これらのデータが明確に定義されたフォーマットで保存されることにより、生徒が後から簡単にアクセス・活用できる環境が求められます。

保存形式 - "File over database"

「データベースよりファイル」と覚えてください。

個人に紐づくデータの長期保存は、クラウド内のデータベースに依存する形ではなく、ファイル形式で手元に保存できることが望ましいと考えられます。具体的には、以下の理由が挙げられます。

  • Future-Proof: Microsoft Office製品のように、ファイルとして残る形式であれば、10年後、20年後でも容易に参照可能です。
  • ポータビリティ: 学習支援クラウドサービスに保存されたデータは、サーバー上のデータベースとして管理されるため、学校を卒業後にアクセス権を維持・管理することが難しいという課題があります。しかし、卒業時にデータベースの内容を適切なファイル形式に出力すれば、生徒自身が自由に保存・管理することが可能であり、こうした課題を回避できます。
  • オープンネス: 出力されたファイルは、将来的にAIを含むさまざまなソフトウェアによって解釈・利用可能であることが求められます。そのため、ファイルの仕様が公開されているか、あるいはその構造が自明であることが重要です。

デジタル化によって学習記録や制作物の物理的な劣化を防ぐことができます。しかし、もしデジタル化の結果として学習記録や制作物が生徒や保護者の手に渡らないのであれば、それはアナログ時代よりも劣後していると言えます。

生徒からみた学習履歴の長期利用性をアナログ同等に保つには何よりも「データベースよりファイル」の原則が重要といえます。

情報銀行の立ち位置

情報銀行とは、信頼できるクラウド事業者に構造化データを保管し、必要時に取り出せる仕組みを指します。教育分野では学習eポータルを起点とした情報銀行構想が提唱されていますが、現時点での実現性には課題が残ります。

既存のeポータルのビジネスモデルの課題や実質的な閉鎖性(広く流通している製品ほど、eポータルとの連携が浅いか、されていない現状)はもとより、情報銀行は確立されたビジネスモデルが存在しません。お金の銀行は手数料などのビジネスモデルが存在しますが、情報銀行ではその収益化が困難です。

情報銀行が普及しない現状においては、提示された課題に対応するために、「データベースよりファイル」の原則に従い、生徒が自分のデータをファイル形式で所有できる仕組みを整えることが重要です。これにより、データの長期的な活用と管理が個人の手に委ねられ、より柔軟で持続可能なデータ活用が可能になります。

まとめ

教育データのデジタル化とその活用は、生徒の学びの質を向上させる大きな可能性を秘めています。しかし、データの所有権と管理主体は常に生徒や保護者にあるべきであり、そのデータが長期にわたって活用可能な形で保存されることが重要です。

自治体の教育委員会をはじめとする教育行政関係者には、こうした仕組みの整備と、データを活用した教育機関間の連携を推進する役割が求められています。技術的な進化を活用しながら、生徒一人ひとりの未来に寄与するデータ活用のあり方を模索していきましょう。

 

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